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御駄物な話

伝統的な技法を駆使して天上天下唯我独特なデザインを生み出す駄な物づくり哲学

「嘆きの牛 後半」

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 2012年3月12日に福島県浪江町にある「希望の牧場」に牧場主の吉沢さんの案内で大川興業の大川総裁と一緒に訪れました。
その日に伺ったのは東京電力福島第一原発が水蒸気爆発を起こした1年後だったからです。
311は気仙沼で過ごし、そのまま車で南下して福島入りして翌日浪江町にある牧場を案内していただきました。

 実は20キロ圏内の立ち入り禁止区域に入ったのは2度目です。
最初は2011年6月上旬に大川総裁から電話で、ハワイから放射能除去の新技術を持ったチームが来ているので除染テストに付き合って欲しいと依頼があり、ドライバーかねて福島へ行きました。
僕の初被災地は20キロ圏内だったのです。
芸人って物は何でも貪欲にやらなければダメだという総裁の信念に巻き込まれる仏壇職人です。

 浪江町にある希望の牧場の入り口には東京電力の悪口と共に牛の頭蓋骨が何個も吊るしてありました。
当然、立ち入り禁止区域なので誰も通りません。
誰かに見てもらいたいのではなく、自分の怒りを表現したかったのでしょう。
吉沢さんはその怒りを聞いてもらいたくて今でも定期的に渋谷のハチ公前で街頭演説をしているそうです。
その時に牛の頭蓋骨を持っていきたいと言っていたので、漆を塗ってみませんか?って提案したのです。

 徳川美術館に加藤清正が退治したトラの頭蓋骨が展示されています。
それには真っ黒な漆が塗られています。
漆は数千年前の遺跡からも出土するほど耐久性の高い塗料です。
実際400年ほど前のトラの骨に漆を塗る事で劣化を防いでいます。
この牛たちも震災後の原子力発電所の事故で死んだという歴史の証人であり、後世に伝えなければいけない大事件でもあります。
漆を塗る事で美しく、そして時間を止めることが可能です。

 僕はけっして原発反対派ではありません。
大飯原発が再稼働する時も3日後に現場を見に行ってきました。
原発反対とどんちゃん騒ぎしていた若者は一人もいなく、主婦らしき人が5人座って抗議していました。
テレビでは分からないことが現地にはあります。
現地に足を運び、現地の空気と問題を感じ、僕は作品に思いを込める。
しかし、悲しい出来事があったことを、またそこで苦悩している人がいることを忘れてはいけないと思っています。

*写真の作品は福島県浪江町でいただいた牛の背骨と仏像の光背を組み合わせた作品です。
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